田辺聖子の短編小説「ジョゼと虎と魚たち」がアニメになって、12月に公開されるという情報がネットで流れ、予告編も見られたりするので気になる。それで図書館で借りてきた。
田辺聖子といえば代表作ということになっている「感傷旅行」をずーっと前に読んだ。その後、新聞に連載されてた「文車日記」を毎回読んではいろいろ感心もしたけど、それ以上は読んでいなかった。読んだらくせになりそうな気がして、自分でちょっと避けていた気配がある。
「ジョゼ」はすでに映画化もされているけど、その時も原作を読もうという気になれなかった。しかし、アニメの予告編を見てるとなんだかかわいい。かわいいけど、多分原作はちょっと違う。もちろん、違って当たり前だ。原作をどう解釈するかは自由だもん。でも、やはりこれはちゃんと読んで、「ふ、アニメもいいけど、原作のこういうところが生かされていないのはちょっと残念だね」などと一発かましてやりたいという不純な動機で借りて、読んだのである。
借りたのはジョゼを含む9編の短編が収められたもので、当初は全部読まなくてもいいだろう、ジョゼだけと思ってたのに結局全部読んだ。おもしろかった。今まで読まないでわかったようなふりして申し訳ありませんでした、田辺先生。なんちゅうか、これはその、おだしのようきいた炊き合わせをゆっくり味わいながら食べている時のような、しみじみとした幸福感があるなあと思いましたわ、読んでて。
もっと早くに読んでおくべきかもしれないけど、負け惜しみをいえば年をとった今だからうん、うんとうなずきたくなるところもある。もちろん、若い時に読んで、年をとってまた読み返すのが理想だろうが、まあ人生、出会いはいつ訪れるかわからないじゃないか。ねえ。
ジョゼはもちろんいいし、ビジュアルがたちまち浮かんでくるところがアニメ向きだなと思うが、印象的だったのはやっぱり「恋の棺」。西條八十の同名の詩が引用されている。引用されているのはその一部だが、同じ部分を下に。
語りえぬ二人の恋なれば
われら別るる日にも
絶えて知るひとの無かるべし。
(中略)
われら、山頂の黒き土に巨(おほい)なる穴をうがち、人知れず恋の棺を埋(うづ)めむ。
おんみは愛撫の白き鸚鵡を贄とせよ、
われは寂しく默して金雀児(エニシダ)の花を毟らむ。
(中略)
語りえぬ二人の恋なれば
われらが棺の上に草生ふる日にも
絶えて知るひとの無かるべし。
きゃー。なんだかしびれるよね。
いかんいかん、やっぱり田辺聖子は危険かもしれない。西條八十も読みたくなったじゃないか。
写真はだいぶ前にとある水族館で撮ったもの。ジョゼにちなんで置いてみた。
